国際親善トピックス

「春はバスに乗って」

2015年7月

事務局事務課長 松元肇子

初めての煎茶と干菓子を試した後で

 啓蟄を迎えるというのに厚手のコートを羽織った研修員のみなさん、そして私たち職員は、3月5日の夕刻、スピナバスにいそいそと乗り込みました。その日、「西日本興業倶楽部(旧松本邸)の夕べ」に参加したのは、メカトロニクス・ロボット実践技術、産業環境対策、生産性向上のための保全管理の3コース、あわせて23名の研修員のみなさんとコースリーダーの方3名でした。

 松本邸には瀟洒な洋館と落ち着いた趣の日本館が建っており、通常はどちらにも入場することはできません。邸宅の造りや中の調度品は重厚で美しく、案内のガイドと通訳の方の要を得た説明を聞いていると、この邸宅が、明治以降怒涛の勢いで隆盛を極めていった日本のシンボルのように感じたのは、私だけではなさそうでした。

 ディナーには、食材としてハラルフードも多用されベジタリアン料理も潤沢に用意されていました。ひときわ人気のあったのは巨大なマグロの兜煮でした。係の方がテーブルの横に立ち、大きなスプーンで肉をこそぎ取ってお皿に入れてくださるのですが、たちまち行列ができ、私たちが並んだ頃には、兜はすっかり骨だけになってお皿に座っていました。 研修員の知識にとどまらない文化や食への好奇心を垣間見たような気がしました。

 ひとしきり食べたり飲んだりしたあと、日本館へ移動し、茶道の伊達先生とお弟子さんに、お茶をたてていただきました。毎回ボランティアで、茶の湯の席を設けていただき、茶の湯の歴史を紐解いてくださいます。

 その日は、研修生からの質問が絶えませんでした。質問は茶の湯の歴史や考え方に始まり、茶の湯の席では人のそばを歩くときになぜ立って歩かず、両腕を使って座った姿勢のまま擦るように移動するのかという質問まで飛び出しました。座っている人のそばを立って歩くと、邪魔になるからという答えを聞き、質問した当の研修員はすぐにそれを理解したようでした。理解したばかりでなく、母国の生活様式と比べ、そのあまりの違いを感じていたように思えました。

 外国を訪れ、その国の文化の深部に触れるということは、簡単なことではありません。限られた滞在時間の中で、もてなしの気持ちとともに文化のエッセンスを体験できるということは、本当に大事なことであると改めて感じます。そのアフリカの研修員の彼は、一瞬、日本とアフリカの遠さを感じたかもしれませんが、お互いの文化を理解し尊重することで、いくらでも近くなると、そうも感じたろうと思います。

 イベントの最後にビンゴゲームを開催し、研修員のみなさんには童心に返ってもらったのですが、ささやかな賞品を手に感激して喜んでくれる姿を見るのは、たいへんうれしいことでした。壁飾りの絵の日本女性は何者かと聞かれたので、「八百屋お七」だと取り繕ったのですが、彼らの好奇心はいたるところに発揮され、時々感動させられます。

 私たちは、9時に再び現れたスピナバスに乗り込み、旧松本邸を後にしました。

 パソコン、アミューズメントパーク、コジマデンキ、ハイテク、ジドウシャ。。。そのようなものに代表される日本文化の底には、重厚で揺るぎのないものがあるということを私たちは伝たかったのですが、おそらくそれはうまくいったと感じられました。


研修成果を祈って乾杯