国際研修部トピックス

コロナ後の国際研修のあり方について

2021年1月

コースリーダー原口清史

今回の新型コロナウイルスによる世界的流行で世界は確実に繋がっていることが今さらながら証明され、国際連携の必要性が不可欠であることを世界は改めて認識しました。一方で、各国にとっては国民の健康と疲弊した経済の再生が喫緊の課題であり、財政投入も社会保障など、どうしても避けられないものを除けばコロナ対策と経済再生に最優先で投入されるでしょう。
コロナ後の世界の秩序は米中の対立をはらんだまま保護主義・ブロック主義に傾き、当面、経済は停滞するとの予想がなされています。加えて気候変動に伴う異常気象は、干ばつや洪水などによって多くの人命を奪い、農林漁業に大きな被害をもたらしております。将来的にさらに被害は拡大する恐れがありCOP21パリ協定を含む国際的な合意形成が大きな鍵となります。

コロナについては治療薬やワクチンが開発されれば克服可能ですが、世界の政治経済システムはこれまでの世界のシステムと違った変則的なグローバル化が進むと言われ、我が国にとってはサプライチェーンや外国人高度人材の確保や技能実習生の獲得などの再構築が求められそうです。このことは、世界的な食料安全保障や経済安全保障を担保する上で、我が国が国際的にどのような戦略性を持って対処すべきかにかかってきます。
このような環境下で国際協力・国際研修を考えると、短期的にはコロナの影響による財政の厳しさから相対的に優先順位は低くなり、費用対効果や必要性のより高い研修コースが優先されることになるでしょう。有能な研修員の確保、プロジェクト関連、国別研修など研修効果のあがる方法をより徹底していかなければなりません。

一方で、今回の国際的なリモートワークの利用は急速に世界をより身近なものとし、国際研修にとっては会議や講義等のツールとして大いに活用の場を広げるチャンスでもあります。オンライン等の使用の仕方によって、研修員の人物評価や語学力を含む能力レベルでの選考、研修員のための予習・復習、日本での研修の様子など研修員と関係者双方にとって有益な情報が入手可能となり相互理解の促進が図られるでしょう。
さらに、見方を変えれば訪日研修期間の短縮による相手国幹部職員の来日が容易になり、プロジェクトや業務の決定権を掌握するメンバーの参加や、帰国後の現場や作業中からの中継も可能となり即時的かつ継続した支援が可能であり、これは優秀な外国人人材囲い込みを行うべき良い機会でもあります。


2019年度アフリカ地域村落飲料水管理(B)コース
中長期的には、世界はSDGsの対応がメインとなりますが、我が国としては環境・エネルギー分野を中心として途上国で課題となっている農林水産業や食品産業の成長を促し、結果として我が国のサプライチェーンの強化につなげるとともに、持続可能な地域分散型エネルギーシステムの構築等を支援していくことで我が国の食料安全保障や経済安全保障につなげることが肝要です。
日本としては、2050年に向けて産業技術ビジョンが示す5つの潮流、@世界人口のピークアウト、A資源・環境制約の高まり、Bデジタル経済への移行、C地政学的・保護主義の高まり、Dレジリエンス(自然災害等の対応)に対応する政策や技術をSDGsにうまく盛り込み、かつ活用しながら貢献していくことが望ましい。これを先進国・途上国とも手を携えて新たな価値観を共有しつつ持続可能な社会・経済を目指すべきです。


2019年度アフリカ地域村落飲料水管理(B)コース
いずれにしても訪日研修のすばらしい点は、見て触って体験することで身体にしみこませるものであり、将来にわたっても、この研修方法は全ての研修に通用するものです。短期的にはコロナの影響で経済財政的には厳しいものがありますが、これを奇貨として中長期的展望を持って進むことの必要性を痛感します。